遂にこの日がやってきた。SID 15th Anniversary LIVE HOUSE TOUR「いちばん好きな場所 2018」の初日、9月3日の神奈川・CLUB CITTA’だ。「いちばん好きな場所」とは、2008年のインディーズ・ラストツアーで初めて掲げられ、2010年のライブハウスツアーでも使われた、シドの原点を示す重要なタイトル。結成15年、バンド史上最大規模の31公演に及ぶ大ツアーに臨み、三たびそのタイトルを掲げた4人の思いとは?
セットリストは、新作『いちばん好きな場所』を中心に、4月にリリースされた『SID Anime Best 2008-2017』の楽曲にも光が当てられる。『劇場版アニメーション「黒執事(Book of the Atlantic)」』の主題歌になった「硝子の瞳」は、スピード感と哀愁とポップさが絡み合うシドの得意技だ。とにかくこの日のシドは力強く演奏し、しっかり歌うことに専念して、セットも含めて余計な装飾は一切ない。これがライブハウス、シドの原点だという意識がビンビンに伝わってくる。マオの表情も、いつも以上に笑顔いっぱいだ。この日のハイライトをいくつか挙げるなら、その一つは間違いなく「その未来へ」だった。『いちばん好きな場所』の3曲目に置かれたバラードは、ライブハウス空間の中で、想像を超える豊かな広がりを聴かせてくれた。その未来へ、あなたへ、繋げよう。この歌はきっと、ツアーのアンセムになる。そう確信させる、真心のこもったパフォーマンス。
マオの言葉通り、アッパーとスロー、激しさと柔らかさの区別だけではなく、流れの中で一つの大きな画を描いてゆく、パズルのような選曲が面白い。だからこそ、「マスカラ」のように懐かしい曲も、サイケな妖しさと解放感を兼ね備えたダンスロックとして、耳に新しい。ミニアルバムからの「ラバーソール」のような新しい曲も、屈託なくシンプルで明るいロックチューンとして、心に映える。15年続けたライブバンドの定番を盛り込みつつ、その先の未来へ向け、新しい刺激を生み出す。バンドの狙いは明確だ。やはり初日の緊張感があったのだろう。アンコールは本編とは違い、かなりリラックスした4人の姿が見られた。メンバー紹介のタイミングを間違えてゆうやとマオが笑い合ったり、マオが観客に「どうやるんだっけ?」と聞いて場内が爆笑に包まれたり。かっこよく決めたシドもいいが、ちょっとずっこけた飾らない素顔のシドもいい。15年かけて彼らは、どちらの顔にも磨きをかけ、それが多くのファンを引き付けてきたのだと、幸福感いっぱいの客席を見ながらそう思う。「この長いツアーのグランド・ファイナルを、来年3月、横浜アリーナでやります。横浜アリーナは、「dead stock TOUR 2011」の時に、震災で一回飛ばしちゃってるから、絶対にやりたかった。しかも震災の前日の3月10日。運命的なものを感じます」